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中国の「非友好的な国」調査で見事1位に輝いた豪州 中国の「自滅」が世界を救う

2018.7.30 10:16

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 豪州の書店に《サイレント・インベージョン=静かなる侵略》なる本が平積みされているという。一方、8月2日までホノルル周辺海域を中心に繰り広げられている多国籍海軍合同演習《RIMPAC=リムパック2018》で、リムパック史上初の陸上部隊が軍艦を攻撃する演習(SINKEX)が実施された。平積みされた本とSINKEXは「連動」している、と筆者は感じる。この「連動」こそ今次小欄のテーマである。
 本の著者は豪チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授で、豪州に浸透する中国の邪悪な影響に警鐘を鳴らし、著作でも《中国は民主主義を利用して民主主義を破壊する》と看破した。例えば、豪州に移住した中国系富豪が与野党の政治家や大学に多額の資金を提供している実態を紹介。中国に魂を売った政治家の発言や大学の研究が、南シナ海の領有権問題や自由貿易協定(FTA)などを、中国の望む方向に誘導していく工作を暴露した。中国系富豪らは中国の国政助言機関・全国政治協商会議の代表を務めており、共産党との関係にも疑いの目を向けた。

 実際、豪州戦略政策研究所は6月、企業が負担した豪州国会議員の海外出張の内、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の主催案件が8年間で12件(判明分のみ)と最多だっと発表した。ロイター通信によれば、ジュリー・ビショップ外相や現職の貿易相&前貿易相が「中国の丸抱えツアー」に参加していた。
 華為技術中興通訊(ZTE)とともに、米国防総省が4月に「お出入り禁止」を命じた徹底警戒対象企業。2社が製造する携帯電話は、全世界の米軍基地内店舗で販売を禁止されたほど「盗聴の先兵」だと疑われている。特に華為技術は、豪州が計画中の第5世代(5G)移動通信整備事業受注をもくろむ。
 日本国内における中国の政財界工作はすさまじいが、豪州国内では工作というより乗っ取りに等しい。2017年末には、中国企業の野党・労働党上院議員への違法献金が発覚。中国企業は見返りに「南シナ海の中国領有権容認」「労働党副党首の香港民主化運動家との面談中止」を求めていた。中国共産党とつながる2人の中国系富豪が、与野党に10年間で5億5000万円の献金を続けていた事実も明るみに出た。

 ハミルトン教授の著書は、留学生や企業幹部らが中国に残した家族・親族への「報復を恐れ」、中国共産党の「代理」と化しているとも指摘しているが、中共の「報復を恐れ」るのは豪州人とて同じ。著書は当初、契約した大手出版社から出版を拒否された。中国のサイバー攻撃や在豪中国系市民の訴訟を恐れたためだ。その後、2社にも断られ、ようやく出版にこぎつけた。英紙フィナンシャル・タイムズは「自己検閲だ」と批判した。
史上初の豪米日陸上部隊による対艦攻撃演習の背景
 さて、以上記した中国の対豪州工作とSINKEXとの「連動」について説明しよう。
 7月14日に実施されたSINKEXは豪州&米国&日本が合同する演習だが、過去とは毛色が全く違う。オアフ島の隣カウアイ島に布陣した陸上自衛隊と米陸軍の地対艦ミサイル部隊が、豪州空軍哨戒機の誘導で、米海軍退役軍艦を撃沈した。
 史上初だったSINKEXは、中国人民解放軍の侵攻に備えて行われた。人民解放軍が台湾侵攻に舵を切れば、米空母打撃群の西進→救援が期待される。そうはさせじと、人民解放軍は九州南部~沖縄本島~台湾にかけて横たわる南西諸島などわが国の島嶼群(=第1列島線)を抜き、西太平洋で迎え討つ戦略を練る。人民解放軍の東進を阻止すべく、わが国の島嶼部に配備した日米の地対艦ミサイルで痛打を与える…これがSINKEXの作戦目標だ。

 豪州はまた、米国との外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を7月24日、米カリフォルニア州で共催した。南シナ海岩礁を違法に埋め立て、東京ドーム278個分(13平方キロメートル)の人工海上軍事基地を造成、さらに増設を謀る中国の動きを「平和的発展を望む地域の願いに反する」と、共同声明で非難。「自由で開かれたインド太平洋」を目指し、日米豪/日米豪印による安全保障協力の強化も確認した。
 協議には、米国はマイク・ポンペオ国務長官とジェームズ・マティス国防長官が、豪州はマリース・ペイン国防相が出席したのは当然だが、「中国の丸抱えツアー」を楽しんだビショップ外相が参加し「豪州は南シナ海で航海や航空を活発にさせていく」と、対米連携姿勢を示したのには、いささか驚いた。
 それはさておき、米軍が敢行し、同盟国に協力を求める人工海上軍事基地周辺に艦艇を派遣する《航行の自由作戦》を豪州が行う可能性に関し、マティス長官は「豪州国民が決める」としつつ、米豪軍が作戦や合同演習で緊密に協力すると補足した。

 豪米両国は対中抑止力として、南シナ海に近い豪北部ダーウィンへの米海兵隊の巡回駐屯規模を2500人まで増強する方針も再確認した。ここでも豪州は苦しい立場に立つ。人民解放軍出身の会長が率い、豪州元閣僚が顧問に就いた中国のエネルギー・インフラ企業=嵐橋集団は2015年、ダーウィン港(一部)の99年リース権を410億円で落札。傘下のダーウィン港管理会社はターミナル拡張+ホテルや工業団地の建設を含む開発計画を進める。他の豪州内の港と同様、中国資本が支える開発計画=「中国モデル」で貿易量を増やす意向だ。
 つまり、ダーウィン港を利用する米海軍・海兵隊は、中国の監視下で兵力投射することになる。
豪州の絶対防衛圏に手を突っ込んだ中国の愚行
 そもそも、ターンブル首相自身の対中姿勢自体が怪しさ満載だった。1990年代、中国で炭鉱ビジネスに投資。豪中ビジネスイベントで「中国が対日戦争でともに戦った同盟国であることを忘れない」と媚びた。子息の妻は中国共産党員の娘だ。

 だが、激化する主権侵害に加え、中国の投資マネーが住宅価格高騰を招くなど、豪州国民の中国への不満の高まりで、ターンブル首相も豪中関係の抜本的見直しが不可避となった。昨年末の野党労働党上院議員への違法献金を受け、ターンブル首相は「豪州人民は立ち上がった」と、中国を牽制した。中国建国時に「中国人民は立ち上がった」と宣言した毛沢東(1893~1976年)の演説を逆手に取ったパロディーだ。
 中国の豪州への政治工作は、現行法の隙間を突いてくる。従って、▽外国人・企業・団体の献金禁止▽スパイ活動の定義拡大▽港湾・ガス・電力に関する外国投資の規制▽外国の影響を受ける国内組織の監視▽公職経験者の外国機関就職時の公表義務付け…など、中国を念頭に置いた法整備も進む。
 ただ、経済・貿易発展をエサに「中国の虜囚」と成り果てていた豪州の覚醒は、トニー・アボット前政権時代に伏線があった、と筆者は確信している。
 豪州は近隣の軍事大国出現を阻み、近隣に敵性軍事大国の基地を置かせない安全保障政策を伝統的に採ってきた。特に、ダーウィンなど北方は戦略的緩衝帯であり、絶対防衛圏に位置付ける。

 ところが、人民解放軍海軍は豪北方の戦略的要衝で初軍事演習を断行、豪州の対中警戒はかつてないほど高まった。中国はわが国近代史の捏造にことのほか、熱心だが、大東亜戦争(1941~45)中、ニューギニア島~ニューブリテン島~ガダルカナル島といった大日本帝國陸海軍の北方支配に、豪州が多大な犠牲を払い徹底抗戦した戦史を学んでいない。
 人民解放軍海軍・南海艦隊戦闘即応戦隊が、豪北西インドネシア・ジャワ島の最西端スンダ海峡を通りインド洋に進出したのは2014年1月。初の軍事演習を行い、豪北方沿岸を睥睨し、ジャワ島東のロンボク海峡を北上した。中国艦隊がインドネシア列島線を越え豪北方海域に出た前例はない。即応戦隊は輸送揚陸艦+イージス駆逐艦ミサイル駆逐艦の3隻。潜水艦1隻が護衛していた可能性が高い。危機感を強めた豪公共放送は専門家の警告を紹介した。
 「豪州北の玄関口周辺で新鋭艦が示威航海したが、豪州のインド洋における航路帯に中国海軍が直接影響力行使できる実態を初めて具体的に示した」

 2015年9月に政権を担った豪ターンブル政権は、人民解放軍海軍の示威航海が記憶に残っていたはず。にもかかわらず、蜜月関係を絶ったのは16年以降。中国の王毅外相は「関係を改善したいのなら色眼鏡を外して、中国の発展を見てほしい」と、駐豪大使は「中国に無責任かつ否定的な発言が目立つ。(貿易などで)望ましくない影響が出るかもしれない」と、すごんでみせた。
 こんな具合に、中国は自らの脅威を誇るが如くまき散らし、友好関係だった豪州を敵性国家へと誘った。賢者を自任する中華帝国としては「間」が抜けている。《自滅する中国/なぜ世界帝国になれないのか=芙蓉書房》の著者エドワード・ルトワック氏は、一方的勝利継続は相手の反動を呼び、結局は自らを滅ぼす逆説的論理《勝利による敗北》を説く。すなわち-
 《国際常識を逸脱した台頭・侵出は畢竟、各国の警戒感や敵愾心を煽る。中立的国家はじめ、友好国の離反まで誘発。敵対国同士の呉越同舟さえ促す。斯くして各国は連携・協力し、場合により同盟まで結ぶ。情勢は中国に次第に不利になり、その大戦略・野望は挫かれる》
 中国の「間の悪さ」=戦略的錯誤→中国の孤立という悪循環、否、好循環が地球を救うのだ。

 ところで、朗報がある。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報が掲載したネットユーザー向け《2017年 中国に最も非友好的な国》調査で、豪州は6割を獲得し、見事1位の栄誉に輝いた。言い換えれば、「模範外交実践国家」だと認められたのである。