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出口見えない「異次元緩和」に潜む恐怖の未来 景気悪化や超円安、超インフレもありえる

出口見えない「異次元緩和」に潜む恐怖の未来 景気悪化や超円安、超インフレもありえる

東洋経済オンライン / 2017年7月7日 8時0分
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出口戦略を明言しない日銀(撮影:尾形 文繁)

■「懺悔」されてしまった日銀黒田バズーカ

アベノミクスが始まって以来、日本銀行は2%のインフレ目標を抱えて「異次元の量的緩和政策」いわゆる「黒田バズーカ」を4年前に放って以来、国債ETF(上場投資信託)、REIT不動産投資信託)を毎年80兆円超も買い続けてきた。
こうした異次元緩和の経済政策は、空からヘリコプターでお札をばらまく「ヘリコプターマネー」ではないかといわれてきた。このヘリコプターマネーを日本に提唱したのは、元FRB連邦準備制度理事会)議長で著名な経済学者のベン・バーナンキ氏だ。ヘリコプター・ベンの異名でも知られるバーナンキ氏の経済政策によって、米国経済はリーマンショックからいち早く景気回復を実現させたことで知られる。
2016年に発表された消費税率アップの延長も、安倍晋三首相がバーナンキ氏との会談後に決めたことで注目を集めた。要するに、日銀が現在も続けている異次元の量的緩和の理論的な支えであり、精神的教祖様ともいえる。
ところが、そのバーナンキ氏がこの5月24日に日銀行内で行われた講演で、とんでもないことを口走った。
「私は理解が足りなかった」
「初期の論文での指摘は楽観的で、中央銀行量的緩和を実行すれば、デフレを克服できるはずと確信しすぎた」
「ほかの選択肢を無視しすぎた」
まさに、日銀が現在も続けている金融政策が過ちだった、と白状してしまったのと同じだ。さすがに、大手メディアはそろって無視したが、日銀の黒田東彦総裁の胸中は穏やかではなかったはずだ。かけられたはしごを思いきり外されたようなものだ。
現在、日銀がやっている量的緩和は、実質的に財政支出中央銀行が紙幣の増刷で引き受ける「財政ファイナンス」の状態といわれるが、安倍政権も中央銀行も、かたくなに否定し続けている。しかし、財政ファイナンスという名のヘリコプターマネーはすでに離陸済みであり、いま論ずるべきは現在の量的緩和、マイナス金利をいつやめるのか。「出口戦略」の時期についての議論をすべきときに来ているともいわれている。
もともと、財政法は第5条で日銀の国債引き受けを禁止しているが、政府は日銀による巨額の国債買い入れは「財政法第5条に抵触するものではない」という答弁書を2015年7月27日の閣議で回答しており、財政ファイナンスに該当するかどうかについては、すでに解決済みというスタンスをとっている。
財政ファイナンスではないとすると、現在の年間80兆円超もの国債などの買い入れはいったい何なのか……。インフレ率2%の達成を目指すというにもかかわらず、その効果は4年も経過するのに実現できていない。

安倍政権は、日銀の理事をあえて巨額の財政出動を積極的に推し進める「リフレ派」をそろえることで、実質的なヘリコプターマネーを実現した。にもかかわらず、現時点ではインフレ率2%の達成にはまだほど遠い。2017年4月の生鮮食品及びエネルギーを除く総合の消費者物価指数は「0.0%」。人口減少時代を迎えて雇用市場だけは好調だが、賃金が上がらずアベノミクスは停滞を余儀なくされている。
黒田日銀総裁は、バーナンキ氏が目の前で懺悔したにもかかわらず、講演でも「大切なことはやり遂げることだ」と述べ続けている。安倍政権が続くかぎり、日銀の「出口戦略」は実現されない可能性が高く、このまま日銀が量的緩和、マイナス金利政策を続けたらどうなるのか……。
一方、世界は大きく方向転換しつつある。一足早く量的緩和を辞めて、金利引き上げを実現させた米FRBをはじめとして、6月27日にECB(欧州中央銀行)の年次総会でマリオ・ドラギ総裁が、はじめて量的緩和縮小(テーパリング)の可能性を示唆した。
イングランド銀行のマーク・カーニー総裁も「向こう数カ月」以内には金利引き上げの検討に入ると発言。カナダ中銀のスティーブン・ポロズ総裁もカナダの金利を「異常に低い」と指摘して金利引き上げの可能性を示した。
つまり、日銀だけが先進国の中で量的緩和を続けることになるわけだ。加えて、都議会選挙での自民大敗は「アベノミクス終焉」の可能性を示唆している。物価の番人であり、金融システムの番人でもある日銀は、今後どうするのか……。

■財政ファイナンスに手を染めた政府は必ず破綻する?

現実問題として、日銀がこのまま日本国債ETFREITを買い続けていった場合、何が起こるのだろうか。中央銀行の場合、そのバランスシートが「健全さ」のバロメーターのひとつとなっている。
FRBは、そのバランスシートの正常化をスタートさせると宣言している。バランスシートを無制限に拡大することは望ましくない、ということをFRBが突き付けたと言っても過言ではないだろう。
にもかかわらず日銀は、出口戦略に対して明言せず、また量的緩和縮小によって何が起こるのかの検討もせずに、ただ漫然と異次元の量的緩和を続けている。
FRBに続いてECBや英国、カナダの中央銀行までもが金融緩和から引き締めへと舵を取ろうとしている。日本だけが量的緩和を続けていくことになるわけだが、具体的に何が起こるのか、その可能性を考えてみよう。

■やがて日本の景気は失速する

➀日銀に資金が集まり景気が悪化する
これは、すでに起きていると考えたほうがいいが、中央銀行国債を買い上げているために、民間企業とりわけ民間銀行の資金が日銀に吸い取られていくことになる。その状態を避けようとして導入したのがマイナス金利だが、日銀は国債を買い上げて紙幣を印刷し続ければ、紙幣は日銀の「負債」となり、債務がどんどん膨らんでいくことになる。
それでも量的緩和を続けなければならない日銀が次に打ち出したのは「量から金利へのシフト」だ。市中の金利上昇によって民間の資金需要が抑制される「クラウディングアウト」を避けるためのイールドカーブの調整という前人未踏の領域を日銀は歩き続けている。その影響は未知数だが、景気が良くなるための条件とはなりそうもない。やがて、日本の景気は失速するはずだ。
➁日銀のバランスシートが膨らみすぎて出口戦略が実現不能になる
現在の日銀のバランスシートは500兆円弱だが、その資産のうち国債が424兆5954億円(4月30日現在)、全体の85%を占めている状態だ。異次元緩和が始まった2013年4月には134兆円だったことを考えると、ざっと3倍強に伸びた。
言い換えれば、日銀が出口戦略を始めたときには、この買い集めた国債を放出(売却)しなければならないことになる。実際に、米FRBが発表したバランスシートの正常化では、米国債を月額60億ドルずつ、MBS住宅ローン担保証券)を同40億ドルずつ削減(売却)し、最終的には月額で各300億ドル、200億ドルのベースで縮小していく意向を示した。そのうえで、最終的にはピークとなったバランスシート=4.5兆ドル(約495兆円)からリーマンショック前の9000億ドルに近い状態にまで縮小していきたいようだ。
FRBも、日銀も同じなのだが、国債などの保有資産を縮小していくということは、金融市場に国債ETF、あるいはMBSを売却していくことになる。当然ながら、需給の関係から国債などの価格は下落する。価格が下落する、ということは金利が上昇することになる。
日銀がこのまま国債の買い入れを続けていけば、いずれは出口戦略をとることになる。仮に米国と同じように、保有資産の縮小=国債の売却を実施した場合、金利はあっという間に2%に届くと予想されているが、米国と同じ資産規模を考えると2%では止まりそうもない。3%、4%、あるいはそれ以上に上昇する可能性が高い。

日本の財政赤字は、対GDP比でいまや250%にも達しようとしている。政府の一般予算の3分の1は国債の利払いで消える状態が続いている。金利が1%上昇しただけでも、国債費の歳出は大幅に上昇することになる。簡単に言えば、この方法は採用できないことを意味している。
③日銀の信用度が低下し日銀券が売られる(超円安を招く)
米国や欧州がやろうとしている出口戦略を採れないとすればどうなるのか。もうひとつのわかりやすいシナリオは、日銀のバランスシート拡大によって「日銀券」の信用が失墜することだ。円の価値が下落し、長期的な円安になる可能性がある。
1ドル=200円とか300円の水準になれば、当然ながら輸入インフレが襲い掛かり、日本の物価は跳ね上がる。ただし、黒田日銀総裁ドル円相場の限界点を「1ドル=125円」と発言してしまったために、現在も「黒田ライン」として上値抵抗線になっている。
しかし、昔からGDPの2倍を超えるような莫大な財政赤字を抱えた政府が、戦争なしで無傷で回復した事実は一度もない。最もオーソドックスな結末だが、国民生活に与える影響は計り知れない。安倍政権の狙いは、このシナリオを実現させることではなかったのか。意図的なインフレによる財政赤字の解消だ。
④金融システム不安が表面化する(金融不安が勃発)
中央銀行のバランスシートが拡大していく過程で予測される危機のひとつに、金融システム不安がある。実質的な財政ファイナンスがすでに実施されていることを金融市場が認めざるをえなくなったとき、投資家が次に心配するのは政府発行債券(国債)の「デフォルト(債務不履行)」だ。
実際に、日本政府の国債がデフォルトに陥ることは外貨準備高が多く、外貨資産をたっぷりと保有している民間企業や家計(個人投資家)の現状では考えにくい。ただし、銀行などの金融機関は別だ。
国債の格付け下落やリスクウエートの上昇によって、金融機関にデフォルトの危機をもたらす可能性がある。金融システムの不安定化が常態化し日本全体に悪影響をもたらす。

■政府の財政赤字拡大の道具になった中央銀行

日本政府の財政赤字の拡大は留まることを知らない。日銀が、どんどん国債を買い支えてくれるからだ。2020年にはプライマリーバランスを黒字化させることを、安倍政権は「骨太の方針」として明記し、毎年閣議決定しているが、本気でできると思っている投資家は1人もいないはずだ。しかも、2017年の骨太の方針では「消費税」の文字が消えた。

財政支出を抑える=財政規律の重視を尊重するEU欧州連合)に対して、安倍政権はアベノミクスと称して財政規律の緩和を推進。株価を上げて、支持率維持の道具として使った。
その結果、最終的に迎える段階は日本国債のデフォルトだ。ちなみに、2000年以降にデフォルト(リスケジューリングを含む)を起こした国家には、コートジボワール、ナイジェリア、インドネシアドミニカ共和国パラグアイウルグアイベネズエラなどがある(『国家は破綻する』カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ著、日経BP社刊より)。
日本の場合、かつてロシアが実施したような典型的なデフォルトは起こらないかもしれないが、それでも不安は残る。日銀が保有する資産(国債)で損失を出さないようにするための方法としては「永久劣後債」や「永久国債」にしてしまう、といった抜け道を提案するエコノミストも数多い。
いずれにしても、オーソドックスな方法では、もはや日銀は異次元の量的緩和から脱出できない。むしろ、「流動性の罠(利子率が一定水準に下がると金融政策が効かなくなる現象)」から脱出できなかった現実を踏まえて、その現実に立ち向かうときが来ていることを認識すべきだろう。

■安倍政権崩壊後の政権が地獄を見る?

安倍首相の支持率低下とともに、自民党が再び下野する可能性が出てきた。7月2日の都議会選挙で自民党は歴史的な大敗をきしたが、安倍政権の崩壊もありえる。アベノミクスは終焉の時を迎えているのかもしれない。
しかし、ここにはとんでもないリスクが潜んでいる。
安倍自民党が執った財政・金融政策がもたらすツケを、次期政権が背負うこともありえる。アベノミクスを中止し、拙速に中央銀行の異次元緩和を中止、あるいは安易にバランスシートの縮小を目指したりすると、日本経済は高金利、超円安、超インフレが一度にやってくる可能性がある。国民に想像を絶する困難をもたらすかもしれない。』