毎年4月は新入園、新入学の月。この時期になると話題になるのが、なかなか改善の兆しが見えない都市部の保育園における「待機児童問題」。政府は「早急な改善が必要」としながらも、職場復帰のために子どもを預ける保育園が見つからず、退職に追い込まれるケースが後を絶ちません。これは、保育士不足だけで片付けられる問題ではないのが現状で、依然として解決の糸口が見えない深刻な問題です。メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官の大村さんは、この問題の裏に「巨大保育利権」が大きく絡んでいるという衝撃の事実を明かしています。
待機児童問題の原因「巨大な保育利権」とは?
4月を前にして、また待機児童問題が注目されるようになりましたね。
もうずいぶん前から問題になっているにも関わらず、未だに解決していないわけです。
少子化で子供が減っているはずで、待機児童問題など、やろうと思えばすぐにできるはずなのです。待機児童はだいたい2万人程度です。保育所を千か所くらいつくれば、すぐに解決できるのです。一か所につき、1億円をかけたとしても、1000億円で済みます。
100兆円の予算規模を持つ日本政府が、待機児童のために1000億円を出せないはずはないのです。日本は深刻な少子高齢化社会を迎えており、子育て環境というのは、最優先で整備しなくてはならないはずです。その問題に対して、たかだか1000億円の金が出せないというのは、どういうことでしょう?
実は、待機児童問題というのは、保育士不足とか、予算不足の問題ではないのです。
あまり知られていませんが、保育業界には、巨大な利権構造があります。この利権構造には、自民党だけじゃなく、民進党や共産党までもが、絡んでいるのです。だから、この利権構造を、誰も壊すことができないのです。
国の基準では、0歳児を一人預かれば、毎月20万円以上の補助金がもらえることになっています。
そして保育士は0歳児3人につき一人つけておけばいいことになっています。保育士の給料はだいたい20~30万円です。ということは、0歳児が3人いれば、補助金から保育士の給料を差し引いても30~40万円の収入になるのです。
保育所をつくるためには、土地と建物が必要なので、初期投資は必要ですが、それが済めば、後はかなり美味しいビジネスなのです。
だから、逆に言えば、土地と金とコネを持っている人にとっては、これほど美味しい商売はないのです。
民間の保育所の経営者というのは、地主であったり、寺社であったりなど、その地域の有力者である場合が多いのです。彼らが、自分の広い土地に保育所をつくり、税金もほとんど払わず、補助金をがっぽりもらって潤い続けてきた、そういう構造があるのです。
だから、報酬なども、理事長の意向で決められます。
保育士は、安い給料でこき使い、自分は多額の報酬を受け取るということも多いのです。
実際、民間の認可保育所の保育士の給料が非常に安いという事は、たびたび問題になっています。
前述しましたように、認可保育所では、多額の補助金が出るので、保育士には十分な給料を払っても、十分におつりがくるようになっています。にもかかわらず、ほとんどの民間認可保育所では、20万円程度の給料しか払っていないのです(20万円以下の場合も多々ある)。
また民間の認可保育所には、非常に悪辣な人事システムを採っているところが多いのです。初任給は20万円程度で、普通の企業とあまり変わらないのですが、昇給がほとんどないようになっているのです。だから、新卒の就職先としては悪くありませんが、長く働くことはできないのです。
保育所としては昇給をしなくて職員が辞めても、若い人を雇えばいい、という発想になっているのです。
そのため、保育士という仕事の魅力なくなり、志望者が減っているのです。
その一方、民間保育園の理事長の報酬の平均は1千万円を超えているのではないかと見られています。
そして人事権、運営権などは、事実上、設立者の手に委ねられています。
「既得権益」の典型的な例だといえます。
このように、民間の認可保育所というのは、非常にボロい商売なのですが、経営者たちにとって、一番の悩みは「新規参入」なのです。
そのため、いくら待機児童が増えようが、新規参入を必死に阻止しているのです。
現在、認可保育所を作ろうと思えば、大変な基準をクリアしなくてはなりません。
原則として60人以上を子供を預からなければならないことになっています。つまり、子供が60人集まらないところでは、保育所をつくってはならないのです(特別に認められれば20人以上でも可能)。
また、ほふく室、遊技室だけで面積200平方メートル、運動場も200平方メートル以上なければならないとされています。これに、調理室、医務室などを揃えていなければならないのです。
この条件に合うような施設を、都心でつくるのは、非常に困難です。建物はともかく、民間人がこれだけの広さの運動場を準備するのは、都心では不可能です。
保育業界は左右の政党と深い結びつきを持っている
そもそも、なぜ保育業界は、このように政治から守られているのでしょうか?
その答えも、しごく簡単です。
保育業界は、各政党の強力な支持母体となっているからなのです。
この三つの団体は、厚生労働省の部会などにも参加しており、政治的に強い力を持っているのです。
しかも、保育業界のたちの悪いところは、左翼系の政党との関係も深い事です。
公立の保育士たちは、非常に待遇がいいのです。普通の民間企業よりも、各段にいい給料をもらっています。
また自治体の中には、公立保育所を民間に委託しようという動きもありますが、公立保育士たちの組合の反対運動で、ことごとくつぶされているのです。もし、公立保育所を民間に委託できれば、予算の余裕ができて、保育所を増設できるにもかかわらずです。
私立保育園の経営者と、公立保育園の保育士は、利害が一致しているのです。
つまり、日本の政界全体が、保育業界を守ろうとしているのです。その犠牲になっているのが、待機児童なのです。
現在の認可保育所における高い設置基準は、子供たちを守るためのものではなく、保育業界を守るためにあるということです。
もし、子供たちを守るためにあるというのなら、その基準をクリアしていない保育所を許すべきではないし、無認可保育所の存在を認めないということになれば、行政は子供たちを全部、収容できるように認可保育所をつくらなければなりません。
行政はそれをせずに、待機児童を生じさせてしまっています。
認可保育所に入れれば、子供たちは手厚い保護を受けられますが、入れなければ、安全はまったく保障されません。
実際に認可保育所に入っていない子供は、しばしば事故に巻き込まれています。
これにとどまらず、無認可保育所での死亡事故はこれまでにも数多く起きています。
認可外保育所は、当然のように、経費を削るために使用する人数を制限することになります。目が行き届かなくなり、安全が脅かされるということです。
無認可保育所の事故で死亡した児童というのは、保育所の過失で死亡したのではありません。既得権益にしがみつく保育業界に殺されたのであり、保育業界を擁護してきた自民党、社民党、共産党の議員たちに殺されたのです。