本当のところはどうなの?のブログ

本当のところはどうなの???

風俗でも稼げない。シングルマザーの追いつめられた貧困の実態

文春オンライン / 2018年5月5日 21時0分
写真
©iStock.com
 全国で約123万世帯にものぼるシングルマザー世帯。母子家庭の平均年収は全世帯平均年収を大きく下回り、子供たちを巻き込んで貧困状態にあえぐこととなる。なぜ貧困から生まれる負の連鎖から抜け出せないのか、シングルマザーやその子供を取り巻く環境はどう変化しているのか。ノンフィクションライターの中村淳彦氏が解説する。 (出典:文藝春秋オピニオン 2018年の論点100)
 篠崎さん(仮名、46歳)はシングルマザーだ。大きな団地群の一角で、小学校に通う子供2人と暮らす。彼女は暴力体質だった元夫が暴れて空けた壁と冷蔵庫の穴、勤める介護事業所からの給与不払いを宣言する内容証明、「重度ストレス反応」と書かれた診断書を見せてくれた。貧困に加え、さまざまな不幸が重なって追いつめられた状態だった。
「先月まで訪問介護に勤めていましたが、辞めた月の給与が支払われなかった。事業所に催促をしたら『勝手に辞めたので給与は支払わない』って。お金は本当にギリギリ。それに精神科の診断で、労働はしばらく止められています。どうしても今月と来月の生活は乗り切れない」
 収入は児童扶養(ふよう)手当月5万2330円と児童手当月2万円、児童育成手当月2万7000円のみ。それに元夫からの養育費6万円が毎月振り込まれる。合わせて15万9330円。それに手取り月12万円ほどの給与を予定していたが、介護事業所の通告によって突然12万円が入ってこなくなり、混乱状態に陥った。

「子供のお年玉も、全部使ってから出直すように」

数日前、わらにもすがる思いで生活保護の申請のために福祉事務所を訪ねたが、
「児童育成手当が出たばかり。『育成手当、それに子供のお年玉も、全部使ってから出直すように』と追い返されました」。
 彼女は自分と子供に対する夫のDVで2年前に離婚。その後精神障害を発症したが、なんとか介護職として勤めていた。また、暴力に支配されて育った小学校低学年の子供は、学校で頻繁に問題を起こし、学校側から転校を促されている。
 全国で約123万世帯にのぼるシングルマザーの貧困は深刻だ。全国母子世帯等調査によると、母子家庭の平均年間収入は223万円(平均就労収入は181万円)。全世帯平均所得545万円(国民生活調査)、児童あり世帯の平均所得707万円を大きく下まわる。相対的貧困に該当する母子世帯の子供たちが“子供の貧困”のメインであり、6人に1人の子供が該当するとされる。

「子供6人に1人が貧困状態」の実感

 筆者は2015年から女性を中心に貧困取材をしてきた。「子供6人に1人が貧困状態」というデータは、筆者の実感の通りだ。あらゆる場所に貧困母子家庭はあり、増加傾向にあることは間違いない。貧困の実態はそれぞれだが、多くは近隣に実家や親戚がなく、誰も助けてくれる人がいない環境(関係性の貧困)にある。老朽した団地やアパートに住み、母親は無理をしてダブルワークをする。最低賃金に近い非正規雇用のサービス業で10万円前後の就労収入、それに児童手当、児童育成手当を足してギリギリ最低限の生活を送る。元夫から養育費が滞りなく支払われるのは少数で、本当に苦しい状態の家庭が多い。
 貧困は、満足にご飯を食べられない、子供が修学旅行に行けない、給食費が払えない、進学できないという経済的な問題だけでは終わらない。貧困母子家庭の女性の多くは夫のDVやモラハラに耐え切れず離婚している。篠崎さんのように精神疾患を患い、安定して働けない人も多い。母親は職場や子供との人間関係がおかしくなり、さらに悪い男に騙されたり、子供が円満な学校生活を送れなかったりする。また、社会も彼女たちの貧しさにつけ入る。深刻な人手不足にある介護業界はシングルマザーを積極的に雇用するが、ブラック労働を強いる、規定通りに給与を支払わないという事業所は膨大にある。一度、貧困に足を突っ込んでしまうと、負の連鎖が止まらないのだ。

風俗はセーフティネットではない

 数年前、生活保護申請に駆け込んだシングルマザーに「風俗で働け」と言った自治体が福祉業界で話題になった。だが現在、キャバクラ、風俗、AV女優、売春などは一般女性の志願者が増えすぎ、圧倒的な女性の供給過剰にある。価格は暴落、貧困女性のセーフティネットとしての一面は完全に失われた。よほど容姿などのスペックが高くない限り、貧困シングルマザーは客単価が1万円以下の格安店でしか採用されない。
 性風俗は2005年の風営法改正で店舗型から無店舗(デリヘルなど)に移行し、届け出制となって実質合法化したことから激増した。女性の供給過剰、性風俗店の増加、そして少子化のため、1店舗あたりの男性客は減少。だから出勤しても満足に客はつかない。完全出来高制なので、待機時間も含めて時給計算したら最低賃金を割るケースも増えている。

客が2人ついても日給8000円

 デリヘルでは出勤して1日待機しても1人あたりの客数は平均2人程度だ。男性が支払う金額60分8000円のうち、売上が店側と折半なら1人4000円にしかならない。運よく客が2人ついても日給8000円にしかならない。
 筆者が最近よく出会うのは、学費や生活費を稼ぐために風俗や売春に身を投じる貧困家庭や貧困シングル家庭で育った子供たちだ。澤村桃香さん(仮名、20歳)は中堅私立大学の3年生。児童養護施設育ちで、親はいない。昼間は中小企業でデータ入力の仕事をしながら、夜間大学に通う。空いた時間は性風俗で働き、さらにツイッターで「パパ活」をして、数人の中年男性を相手に売春をする。
「アルバイトだけでギリギリ生活は送れます。けど、どうしても学費が払えない。それは高校生の頃からわかっていたことで、1年生の春には風俗に行きました。デリヘルです。出勤は週1日くらい。稼げるのは月6万~10万円程度。稼いだおカネは、全部貯金して学費です。本当にカラダを売るしか手段がありません」
 真顔で、そう語る。デフレが進行した現在、風俗や売春がセーフティネットになるのは若い女性だけだ。貧困化の引き金となった労働者派遣法改正から20年が経ち、現在はその子供たちが主流となる。日本の子供の貧困率OECD加盟国34カ国中10番目という状況で、世界的にも貧困が進行する国と認定されている。
 もはや貧困問題への国を挙げた取り組みは、待ったなしの深刻な状況にある。
(中村 淳彦)