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本当のところはどうなの???

日本の税金は不平等 富裕層がトクをして庶民は貧しくなる理由

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 重税国家ニッポンの現実を知っているだろうか。 給与明細を見ると、所得税、住民税、健康保険税、復興特別所得税……3割~4割を「取られ」ている人がほとんど。買い物すれば消費税、家を持てば固定資産税、親族が死ねば相続税もかかる。一方で節税ノウハウをもつ富裕層は巧みに税逃れをし、資金の海外流出は止まらない。不平等な税金システムの実態に迫る『ルポ・税金地獄』の著者より、驚きの事例を紹介する。

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タワマンで節税。税法の抜け穴をよく知る資産家たち

 そのコンサルタントの男性が開いたパスポートには、世界各地のタックスヘイブン租税回避地)を訪ねたことを示す入出国のスタンプがいくつも押されていた。男性は、タックスヘイブンでの会社の設立や資産運用に携わって30年近くになる。
 取材したのは2016年春。世間ではタックスヘイブンを利用した富裕層の税金逃れや資産隠しを暴露した「パナマ文書」が話題になっていたが、男性はまったく意に介していなかった。
「したり顔で解説するコメンテーターや学者を見ると思いますよ。この中に、実際にタックスヘイブンで会社を設立し、現地の法律事務所と折衝して金融取引をしたことがある者がどれだけいるのかとね」
 男性は自らの取引で法に触れたことは一度もないと、胸を張った。
 そして、タックスヘイブンでの取引について、日本でいったん納めた税金を取り戻した「戦歴」を語った。日本の税法を研究して「抜け穴」があることをわかったうえでの取引だったためだ。
 このコンサルタントの男性が言うように、税法には多くの「抜け穴」がある。それは、世界の税制が1つではなく、それぞれの国が税制を定めていることから生じる抜け穴といえる。国内の制度でも、税制が複雑で、いろいろな利害関係があるため、「抜け穴」はできる。富裕層は専門家に相談するなどして、こうした抜け穴を活用しやすい立場にいる。
 朝日新聞経済部は、15年8月から1年余りにわたり、経済面を中心に「にっぽんの負担」という連載を続けた。こうした税の抜け道を駆使して節税に励む富裕層や税制優遇で恩恵を受ける大企業がある一方で、低所得層が税や社会保険料の負担に追い詰められていること、様々な税制が時代遅れになっていることを現場から報告して、解決策を探った。
 なかでもタワーマンション(タワマン)を利用した富裕層たちの節税策は、本連載で報じたことで大きな反響を呼んだ。
 それは、タワマンの高層階の「時価」と、相続税贈与税のために使われる「評価額」との差が大きいことに着目した節税手法だった。
 相続税贈与税国税だが、その評価額には、自治体が集める固定資産税の評価額が使われる。それは、総務省が定めた基準で計算したマンション建築にかかる費用(再建築価格)がもとになる。マンション全体で再建築価格を算出し、上層階か下層階かに関係なく部屋の広さで割り振られる。
 ところが、実際のタワマンは、階が上がるにつれて販売額は高くなる。この時価と評価額の差に注目した節税がタワマン節税の基本だ。私たちが取材した中では、タワマンを活用して6億円の資産を課税されずに息子に渡すことに成功した富裕層もいた。
 連載の反響は大きかった。これを受けて政府は18年度から固定資産税に例外を設け、タワマンの場合には上層階の固定資産評価を上げ、下層階は下げる方針を決めた。階数によって増減率は変わるが、40階建ての場合は、最上階の評価額が5%上がり、1階は5%下がる。1階と最上階は固定資産税も相続・贈与税も評価額が1割違うことになった。
 しかし、これで十分なわけではない。低層階と高層階の実際の価格差は1割程度では済まない。また、40階の評価は5%高くなるにすぎない。一方、評価の差が大きくなると、通常のマンションに比べて、タワマンの低層階の評価が低い現象も生まれかねない。公平さを追求すると、すべてのマンションを個別に評価しなければいけなくなり、タワマン節税の対策が、固定資産税の制度全体の見直しにつながりかねないのだ。

ふるさと納税の恩恵は富裕層に

 こうした制度の矛盾をつく節税対策はまだある。その代表はふるさと納税だ。
 16年10月、横浜市の赤レンガ倉庫のイベント広場で開かれた「ふるさと納税大感謝祭」には、全国61市町村の「出店」が軒を連ね、「地方物産展」の様相になった。初日は、午前10時のオープンとともに、待ちかねた来場者が会場になだれ込み、足の踏み場もないぐらいの盛況になった。中でも行列ができたのは、宮崎県都城市のコーナーだった。持ち込んだホットプレートで焼いた人気の宮崎牛が試食でき、紙コップで焼酎の「白霧島」がふるまわれた。
 15年度のふるさと納税の寄付額が約42億円と首位になった都城市の人気の高さを見せつけたが、会場となった横浜市は逆に、15年度のふるさと納税による市民税の流出が約31億円、神奈川県も県民税の減額が約21億円と、いずれも全国一多かったので、制度を象徴する光景となった。
 ふるさと納税は本来、自分が応援したい生まれ故郷などに寄付をして、所得税や住民税を軽くするしくみだ。だが、記者が「大感謝祭」で見た光景は、自治体の特産品を売り込む自治体の姿でしかなく、寄付によって解決したい地域の課題を訴える自治体のコーナーを見つけることはできなかった。
 そして、ふるさと納税による減税の恩恵を受けやすいのは、やはり富裕層だ。都城市は100万円を寄付すると、小売価格で60万円を超える焼酎1年分がもらえる。ふるさと納税による減税には所得に応じた上限がある。100万円を寄付すると、計99万8千円が所得税と住民税から戻ることになるが、その恩恵を受けるためには、サラリーマンなら年収3千万円ぐらいが必要となる。
 このように、富裕層は様々な税制の「抜け道」を活用できる。さらに、多くの税制優遇も用意されている。子や孫への贈与が1500万円まで非課税になる「教育資金贈与信託」の制度は、安倍政権が発足してすぐの13年4月に始まったが、信託協会によると、信託財産の総額は16年9月末に約1兆2千億円に達した。
 個人に適用される所得税は最高で45%だが、法人実効税率は16年度に30%を切った。こうしたことを背景に、「合同会社」の設立が増えている。06年にできた新しい会社の形態で、少ないお金で設立でき、決算公告の義務もない。その設立数が、10年の約7千社から16年は約2万4千社に増えた。個人のアパート経営者が合同会社を設立して節税するような動きが広がっていることも一因だ。

税金で貧困率があがる日本

 一方で、消費税が上がっても給料が上がらない人は多い。その結果、消費増税があった14年度の実質賃金は3.0%も下がった。消費税で物価が上がっても賃金が上がらないため、給料で買えるものがそれだけ減ったということだ。実は、実質賃金は11年度から5年連続して下がり、10年度より5.3%も減っている。賃金が下がったり、物価が上がったりして、実質的な給料の価値が下がっているのだ。
 庶民の生活を圧迫しているのは消費税だけではない。高齢化とともに上がり続けている年金、医療、介護の社会保険料は、所得が低い人にも容赦なくかかる。増え続ける非正規労働者が多く加入する国民健康保険には所得に関係なく、世帯ごと、家族の人数ごとに定額でかかる負担があり、悪税と言われる「人頭税」のような要素がある。
 自治体財政も逼迫しているため、税も保険料も、滞納すると差し押さえをするなど厳しい取り立てが待っている。
 本来、税や保険料は、富める者から貧しい者に再分配をして、自由な経済活動で生じた格差を是正するためにある。ところが、日本では、再分配の前と後で貧困率を比べると、勤労者や子供のいる世帯で再分配後の方が貧困率が上がる逆転現象が経済協力開発機構OECD)の加入国で唯一起きている。再分配が機能していない先進国として恥ずかしい事態だ。
 朝日新聞経済部は、介護や医療などの現場で高齢者らが置かれた実態を報告した『ルポ 老人地獄』(文春新書)を15年12月に上梓した。今回の『ルポ 税金地獄』は、その解決のための国民の負担を考える続編と言える。団塊世代後期高齢者になる2025年まで10年を切り、これを支える現役世代が確実に減っている今、いかにしてすべての世代の可能性を高める社会を作っていくかを考えるヒントになれば幸いである。
松浦新(まつうら しん)
朝日新聞経済部記者。1962年愛知県生まれ。東北大学卒業後、NHKに入局。89年朝日新聞入社。東京経済部、大阪経済部、週刊朝日編集部、特別報道部などを経て、2012年4月から東京本社経済部。共著に『ルポ 老人地獄』(文春新書)、『電気料金はなぜ上がるのか』(岩波新書)、『プロメテウスの罠』(学研パブリッシング)ほか。今回の『ルポ 税金地獄』は、青山直篤、佐藤秀男、菅沼栄一郎、杉浦幹治、高谷秀男、田中聡子、堀内京子、本田靖明、牧内昇平、松浦新の各記者が取材班に加わった。  
(松浦 新)



そうなのだ。それに景気対策などといった名前を付けて富裕層を儲けさせ、その穴埋めを税金で取ろうとしている日本のやり方にみんな早く気づいてもらいたい。