「遺体の後頭部に大きな傷」「腕や背中も引っかかれ…」60代女性がヒグマに襲われ死亡…アウトドアで遭遇する“危険な動物”たち
〈「道がわからなくなった」登山中の40代男性が遭難、3ヶ月後に“白骨化遺体”で発見…知っておきたい“山の死亡事故リスク”と安全知識〉 から続く 【画像】黒くて大きな手足が…野生のヒグマを写真で見る いつの時代でも、アウトドアで行うスポーツやレジャーは、老若男女を問わず多くの人たちに親しまれている。しかし、その一方で、野山での遭難事故や、川・海での水難事故が後を絶たない。そのような不幸な事故を減らすためには、どうすればいいのだろうか? ここでは、実際に起きた事故を取り上げ、自然の中にはどんな危険が存在しているのか、どうすれば事故を防げるのか解説した羽根田治氏の著書 『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』 (山と溪谷社)から一部を抜粋。アウトドアスポーツやレジャーで遭遇する動物の危険性と、事故を未然に防ぐための知識や応急処置方法などを紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く) ◆◆◆
クマに襲われて死ぬケース
北海道の北見山地南部、天塩岳に近い浮島湿原に続く林道で、7月中旬、60代の女性が倒れて亡くなっているのが見つかりました。遺体の後頭部には大きな傷が、腕や背中にも引っかき傷があり、近くには動物の糞も残されていました。これらの痕跡や専門家による現地調査の結果などから、女性は車を停めた場所からひとりで浮島湿原へ向かおうとして、ヒグマに襲われたものとみられています。 現場周辺は、地元ではよく知られたヒグマの出没エリアで、浮島湿原へは反対側のルートからアクセスするのが一般的となっています。女性がたどろうとしたルートはほとんど使われていませんでしたが、入ろうと思えば入れる状態だったとのことです。 5月下旬、秋田県玉川温泉近くの山の中で、山菜採りをしていた60代女性が、血を流して倒れているのを知人男性が発見し、警察に通報しましたが、現場で死亡が確認されました。頭部に引っかき傷などがあったことから、クマに襲われたものと推測されます。女性は腰にクマ除けの鈴を2つつけていました。現場の玉川地区はタケノコや山菜が豊富な場所で、多くの人が入山していますが、ツキノワグマの目撃情報も多数報告されています。この事故の前年の5~6月には、現場から50キロメートルほど離れた秋田県鹿角市十和田大湯で、山菜・タケノコ採りをしていた4人が、相次いでクマに襲われて死亡する事故が起きていました。 ・死なないためには? もともとクマは臆病な動物だが、クマと人間が至近距離で突然出会ってしまうと、我が身を守るために攻撃を仕掛けてくる。目撃情報がある場所には近づかない、クマ鈴やラジオ、笛などで音を出しながら行動する、新しそうな足跡や糞があったらすぐに下山するなど、とにかく遭遇しないようにすることだ。
変わりつつある人間とクマとの関係性
環境省の統計によると、クマによる人身被害は、2010年以降、少ない年で50件前後、多い年で140件前後が報告されている。人身被害は50~150人程度、このうち0~5人ほどの死者が毎年出ている。ちなみに人身被害は、ヒグマが生息する北海道と、ツキノワグマの生息域である中部以北で多発しているが、岐阜や京都、北陸地方や中国地方でも散見される。年によって被害にバラつきがあるのは、クマの食料となるブナやミズナラなどの堅果類の出来に左右されることが指摘されており、不作の年にはクマが餌を求めて人里まで下りてくるため、人身事故が増える傾向にある。 さらに近年は、クマを取り巻く環境も昔とはずいぶん変わってきた。山に棲むクマと、人間が生活する人里との緩衝地帯的な役割を果たしていた里山は、過疎化や高齢化などにより荒廃が進み、クマが頻繁に出没するようになっている。クマと人間の距離が縮まったことで、両者が遭遇する機会が多くなり、人間を恐れない“新世代のクマ”も現れはじめた。また、我が身や我が子を守るためではなく、捕食目的でクマが人間を襲ったのではないかとみられる事故も、北海道や東北で起きている。 全体的に見れば、通説どおりクマは総じて臆病な性格で人間を恐れるものだと思うが、その定義に当てはまらないクマは間違いなく存在する。クマが絶滅したとされる九州以外で野外活動をする際には(四国には剣山周辺に20頭前後のクマが生息しているといわれている)、そのことを頭のどこかに置いておいたほうがいいだろう。
ハチに刺されて死ぬケース
北海道の羊蹄山で8月上旬、女性がハチに刺されて防災ヘリで病院に搬送されるという事故が起きました。場所は比羅夫コースの2合目付近で、朝6時50分ごろから夫と2人で登山を開始した40代女性が、7時過ぎにハチに刺され、心肺停止状態に陥りました。近くにいた登山者が夫から依頼を受け、「女性がハチに刺されて呼吸が止まりそうになっている」と110番通報し、女性は防災ヘリで救助されましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。 死因はハチ毒のアナフィラキシーによるショック死とみられています。女性の足首にはハチに刺されたような痕があり、夫の話によると「妻は以前にもハチに刺されたことがある」とのことでした。 ・死なないためには? ハチは甘い匂いや黒い色に反応する。野外で活動する際には、化粧や香水、制汗剤、黒いウェアなどは避け、なるべく肌が露出しないように、長袖シャツや長ズボン、帽子などを着用する。ハチが周辺を飛び回っていたら、近くに巣があるかもしれないので、静かにその場から離れることだ。
サメに襲われて死ぬケース
沖縄県の石垣島で10月下旬、旅行に来ていた30代の男女が、石垣市の浜辺にレンタカーを停めたまま行方不明になりました。1週間後、周辺を捜索していた警察官が、その浜に骨盤を含む右脚が流木といっしょに流れ着いているのを発見。右脚には食いちぎられたような跡がありました。さらにその翌日には、現場から約2.5キロメートル離れた浜辺に、うつ伏せに倒れている男性の遺体が見つかりました。死因は溺死とみられています。遺体に欠損はなく、左足にはシュノーケリング用のフィンが付いていました。警察は、女性は遊泳中にサメに襲われた可能性があるとみて、捜索を続行しましたが、その後、女性が見つかったという続報はありません。 ・死なないためには? サメの目撃情報に注意し、サメが出没している海域では泳がないようにする。サメが活発に捕食活動をするのは夕方から明け方にかけて。この時間帯に海に入ることは避ける。また、サメは血の匂いに引き寄せられるので、女性は生理のときは海に入らないのが無難。ケガをしたときもすぐに海から上がろう。
知っておきたい安全知識(1)クマに襲われたら
ある程度、離れた距離でクマと遭遇したときは、ゆっくりあとずさりしてその場を離れる。大声を上げたり、慌てて背中を見せて逃げ出したりしてはならない。至近距離で遭遇し、クマが突進してきた場合は、クマ撃退スプレーを使って対抗する。5メートルほどまでに迫ったときに、目と鼻、口を狙って一気にスプレーを噴射させよう。スプレーがなければ、地面にうつ伏せになり、両手を首の後ろで組む防御姿勢をとって攻撃をやり過ごすしかない。
知っておきたい安全知識(2)毒ヘビに嚙まれたら
傷口をきれいな水で洗い流し、傷口を強くつまんで毒液を体外にしぼり出す。口で毒液を吸い出すのはNG。咬まれた箇所は腫れてくるが、冷やすと血流が悪くなり組織が壊死してしまうので、アイシングは行なわないこと。可能ならば、咬まれたヘビの写真を撮っておくといい。応急手当後は、なるべく早く医療機関で診断・治療を受ける。かつては、毒の巡りが早くなるので走ってはならないといわれていたが、今日では走ってでも医療機関に駆け込んだほうがいいとされる。手足の咬傷ならば、毒のまわりを遅らせるため、手拭いなどの幅広の布で傷口と心臓の間を軽く縛っておく。ただし10分に1回1分ほどは布をゆるめて血流を再開させること。
知っておきたい安全知識(3)ハチに刺されたら
ハチ毒は水に溶けやすい。刺されたら傷口を強くつまんで毒液を絞り出しながら、流水で洗い流す。ポイズンリムーバーを使うと、効率的に毒液を吸い出せる。その後、抗ヒスタミン剤を含んだステロイド軟膏をたっぷり塗っておく。濡れタオルなどで患部を冷やすと痛みが軽減する。嘔吐や呼吸困難、全身の蕁麻疹など、アナフィラキシー・ショックの症状が現れたら、一刻も早く病院で治療を受ける必要がある。症状の進行を一時的に緩和するアドレナリン自己注射キット「エピペン」を携行しているなら、それを注射する。ハチ毒に対するアレルギーの有無は医療機関で調べることができ、陽性の人にはエピペンを処方してもらえる。
知っておきたい安全知識(4)ダニに咬まれたら
吸着して間もないダニは、先の尖ったピンセットなどでつまんでゆっくり引き抜けば、容易に取り除くことができる。その後、傷口を消毒して、抗ヒスタミン系の痒み止めを塗っておけばいい。吸着後1~2日以内だったら、「ワセリン法」も有効だ。これは、咬まれている箇所に、たっぷりのワセリン(ハンドクリームなどでも可)をダニごと覆い隠すように塗り、窒息させるという方法。30分ほど放置してガーゼや布で拭き取れば、ダニが取れることがある。 それでも取れなければ、皮膚科の医院に行って切開除去する必要がある。ダニに咬まれたあと、数週間ほどは体調の変化に注意し、発熱などの症状が現れたら医療機関での受診を。
知っておきたい安全知識(5)サメに襲われたら
日本近海に生息しているサメは、積極的に人間を襲わない種が多いとされているが、獰猛なオオメジロザメやイタチザメも生息している。また、サメによる人的被害も昔から散見される。海で泳いでいるときにサメと遭遇しても慌ててはならない。といってもムリな話だが、パニックになってバシャバシャすると、よけいにサメの興味を引くことになってしまう。とにかく落ち着くように努め、静かにサメの動きを観察し、襲ってこないようであればゆっくりとその場を離れる。万一サメが襲いかかってきたら、必死になって抵抗するしかない。サメの弱点である目や鼻先を狙って、パンチや蹴りを何度も繰り出すことで、運がよければ撃退できるかもしれない。
知っておきたい安全知識(6)ダツが刺さったら
ただちに止血処置をして、医療機関に急行する。ダツが体に刺さったままだったら、引き抜くと出血が止まらなくなってしまう可能性がある。かといってそのままにしておくと、ダツが暴れて傷を深くしてしまうので、胴を切り落として頭を残したまま、できるだけ早く医療機関で治療を受ける。
知っておきたい安全知識(7)海の有毒生物に刺されたら
魚やウニ、ヒトデなどの毒トゲが刺さったら、トゲを抜き取り、傷口を強くつまんで毒液を搾り出し、きれいな水で傷口をよく洗い流す。毒成分は熱によって急速に分解されることが多く、43度ほどのお湯に60~90分ほど浸けておくと痛みが和らぐ。お湯を入れたビニール袋を患部に当ててもいい。イモガイの仲間であるアンボイナは、強烈な神経毒を持ち、刺されると短時間で歩行困難となり、浅瀬で溺死してしまう事故も報告されている。 刺されたらその場で助けを呼ぶとともに海から上がり、早急に病院へ。クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物に刺されたら、刺胞や触手などを海水で洗い流し、患部を氷や冷水で冷やす。真水を使うと刺胞の発射を促してしまうので、海水を使うこと。ただしハブクラゲの場合のみ、酢で洗い流すのが最も効果的だ。刺された箇所をこすると刺胞の発射が促進されるので、こすってはならない。 なお、アナフィラキシーショックを起こしたときは、早急に医療機関へ搬送すること。
羽根田 治/Webオリジナル(外部転載)