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【上高地の1世紀 歩みとこれから】⑳ 人を怖がらない熊 観光客が多い場所に出没 2022/10/18 06:05(記事転載)

 
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徳沢地区の斜面を歩く雄のツキノワグマ=4月7日

■第4部 生物と人、共生の道①

 北アルプス上高地の徳沢地区。春先、梓川沿いの砂利道を歩いていると、黒い影が視界に飛び込んだ。ツキノワグマ1頭が斜面を歩いている。餌を探しているようだ。熊も人けに気付いてこちらを見たが、まもなく視線を戻して再び歩いた。

 「人への警戒心が明らかに薄れてしまっている状態」。環境省上高地管理官事務所国立公園管理官の松野壮太さん(29)は危機感を募らせる。近年、上高地での目撃件数は増え、「人を怖がらない」熊が観光客らが多いエリアに何度も現れ、とどまるケースが目立つという。

 同省が熊対策を委託する自然公園財団上高地支部によると、徳沢地区で目撃した熊は体の特徴から、関係者間で「ユンボ」と呼ばれる成獣の雄。昨年9月には園路脇のウワミズザクラの実に執着し、長時間居座った。

 ユンボの他にも、今年は人が行き交う田代湿原近くで、子熊2頭を連れた雌が繰り返し目撃された。信州大農学部教授の泉山茂之さん(63)=動物生態学=は、観光客らがスマートフォンで写真を撮る機会などが増え、人との接触時間が長くなり「熊が『人は怖いもの』と認識しなくなったのではないか」とみる。

 上高地はもともと熊の生息域だ。近代登山の黎明(れいめい)期、ともに登山案内人として活躍した上條嘉門次(1847~1917年)は生涯で80頭を撃ったとされ、小林喜作(1875~1923年)も猟師として名をはせた。

 上高地は昭和初期以降、国立公園や鳥獣保護区に指定され、現在は熊も狩猟から保護されている。環境省は、生息環境を維持しながら人的被害を未然に防ぐ「共存」を目標にする。

 2020年8月には、小梨平キャンプ場でテント泊の女性が熊に襲われてけがをした。キャンプ場では食料を入れる鉄製コンテナが設置され、同省は熊の生態を学ぶ講習の開催など啓発を強化。自然公園財団上高地支部は今年から熊の個体識別や行動記録にも力を入れている。泉山さんは「危険な熊を生み出さないためにも緊張感のある関係を保つことが必要」と強調する。

          ◇

 多様な生き物がすむ上高地。生態や環境は変化し、人との共生が課題になっている。連載「上高地の1世紀歩みとこれから」第4部は、生き物と人との関わりについて歩みをたどり、現状を見つめる。

          ◆

上高地の熊】 上高地インフォメーションセンターの開館期間(4~11月)に寄せられた熊の目撃情報は、2012~18年は40~77件で推移していたが、19年は158件、20年は144件、21年は過去最多の176件を記録。今年は10月16日までに134件あった。19年と20年には生ごみなどに餌付いた個体が確認され、20年には人身被害が1件発生。その後は餌付いた個体や人身被害は確認されていない。