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日本の税制は「富裕層に有利」で「低所得者に厳しい」『ルポ 税金地獄』【書評】

ZUU online / 2017年10月1日 19時30分
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日本の税制は「富裕層に有利」で「低所得者に厳しい」『ルポ 税金地獄』【書評】(画像=Webサイトより) ((ZUU online))
2015(平成27)年に第3次安倍晋三内閣が新たに打ち出した“一億総活躍”は、誰もが輝くことができる社会の実現を目指すスローガンのように思える。

その受け止め方は間違っていないが、他方で“一億総活躍”は「3世代同居」を推進する政策であり、それを促すための減税政策という意味合いを密かに帯びている。

『ルポ 税金地獄』
著者:朝日新聞経済部
出版社:文春新書
発売日:2017年3月17日

■企業は法人税の引き下げと減税という2つの恩恵

それまでにも自民党税制調査会は親子2世帯同居のためのリフォーム減税を議論してきた。しかし、なかなか実現に至らなかった。安倍政権が急に打ち出した“一億総活躍”で、一気に実現に漕ぎつけることになった。

安倍政権が取り組む減税政策でもっとも知られているのは、法人税の実効税率引き下げだろう。アベノミクスに沸いた2012(平成24)年度から2014(平成26)年度までの間、日本企業は、経常利益を16兆円も増加させた。この数字は過去最高の水準だが、その一方で法人税収は1.2兆円の増加にとどまった。

法人税収が増えないのは、法人税の実効税率が37パーセントから34.6パーセントに引き下がったことが大きな理由だ。それに加えて、特例減税も2倍に拡大されている。企業は法人税の引き下げと減税という2つの恩恵にあやかる。

国民が好況感を実感していないにも関わらず日本経済が沸いているのは、そうしたカラクリがある。ちなみに、法人税は今後も下がりつづける。2018年度は、29.74パーセントに下げられることが決まっている。

■政府は徴税ターゲットは「個人の財布」

法人税の税率を下げれば国全体の税収も減少すると思いきや、国全体では約10兆円の増加になっている。税収増に大きく貢献したのは所得税と消費税の2税で、2012年度に14兆円だった所得税収は2014年度には16.8兆円に増加。

消費税収は税率が5パーセントから8パーセントに引き上げられた影響もあるが、同じく2012年度に2014年度までに10.4兆円から16.0兆円へと増加した。この数字からも、政府は徴税ターゲットを企業から個人の財布へとシフトさせていることが窺える。

となれば、個人が資産防衛策を講じようと考えるのは当然の帰結だろう。特に、莫大な資産を持つ富裕層が、少しでも税金を払わずに済ませようと“節税”に励むことは自然な流れでもある。

本書では、タワーマンション節税をはじめ合同会社の設立や国外移住といった、あの手この手の税回避策が網羅されている。これらは税務当局も課税の網をかけようと躍起になっているが、富裕層の方が一枚も二枚も上手だ。実は富裕層が実践している節税や資産防衛は道徳的な観点に立てば勤労な納税者から詰られる可能性はあるものの、違法・脱法行為ではない。

    
■日本は「富める者には息苦しい」

2013(平成25)年度から始まった「子や孫に一括で贈与した場合、一人あたり1500万円まで非課税」になる教育贈与資金も、富裕層が資産防衛術として駆使する錬金術のひとつだ。富裕層は自分の財産を守ることに“勤勉”なのだ。

本書に登場する一人の富裕層は、日本を「富める者には息苦しい」とまで形容する。富裕層が節税対策を怠らない背景には、重税感が強まっていることが挙げられる。また、重税感のみならず、課税庁・徴税当局に対する不信感が高まっているという理由もある。
だが、重税感や徴税に対して不信感を抱いているのは富裕層ばかりではない。低所得者層だって同じだ。

地方自治体が算出して一方的に納税を通知する固定資産税は、賦課課税方式であるために計算ミスがあっても気づきにくい。2014年には、埼玉県新座市在住の男性が4倍もの固定資産税が20年間も課されていた。新座市の男性は、税金が支払えないために自宅を公売にかけられた。このケースは、公売後に過徴収が発覚。新座市は男性に謝罪したが、一市民の人生を取り返しのつかないほど破壊した。

新座市の事件を受けて、総務省から自治体の担当当局に通達が出された。しかし、それでも過徴収は相次いでいる。10年以上も間違った金額で固定資産税を課税されていたことが発覚するケースもある。

新座市のケースは市が過徴収を認めて謝罪したが、なかにはミスを認めず謝罪をしない、返金にも応じないという自治体も少なくない。また、本書では触れられていないが、自治体の担当部局から送られてくるお詫びの文書には、“過徴収”と表現せずに“誤納付”と表記しているケースも見られる。“過徴収”と“誤納付”では、言葉の印象は大きく異なる。“誤納付”という表現は、あくまでミスをしたのは納税者だと言わんばかり意味を内包している。

こうした課税庁・徴税当局に態度に納税者は嫌気がさして、海外に脱出する富裕層が続出してしまうことは理解できなくもない。しかし、富裕層には可能でも、それができない中間層や低所得者層はどうしたらいいのか? ただ、政府に搾り取られる末路を座して待つしかないのか?

■日本の税制は「富裕層に有利」で「低所得者に厳しい」

現在の税制は、本来果たすべき“再分配”が機能していない。だから富裕層に有利な、低所得者に厳しいシステムになっている。そうした税制において、庶民が手軽にできる節税対策として“ふるさと納税”が一縷の望みといえる。ふるさと納税は、“日本のタックスヘイブン”とも揶揄され、低所得者層よりも富裕層の方が得られる恩恵は大きいが、それでも低所得者層でも実践ハードルが低い節税対策なのだ。

ただし、そんなふるさと納税に対しても、総務省は制度を改めるよう各自治体に通達を出した。その影響で、ふるさと納税で得られる恩恵は小さくなった。

税金は国の根幹をなす大事なシステムだが、その一方で歪んだ税制は国を衰退させる要因にもなる。国民の三大義務である勤労・教育・納税のうち、勤労と教育は義務でもあり権利でもある。納税だけが義務のみと規定されている。そこからもわかるように、この国で暮らしているならば納税から逃れられることはできない。

誰もが不可分の関係にある税のシステムは毎年のように変わる上、複雑な仕組みになっている。一般の国民に理解しにくい税制だが、納税者でもあり有権者でもある私たちにできることは、常に税制に関心を持ち、税に敏感になることだと本書は警鐘を鳴らす。

税金は、国に言われるがまま納める受動の時代から、主体的に納める能動の時代へと切り替わってきている。

小川裕夫(おがわ ひろお)
フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者などを経てフリーランスに。2009年には、これまで内閣記者会にしか門戸が開かれていなかった総理大臣官邸で開催される内閣総理大臣会見に、史上初のフリーランスカメラマンとして出席。主に総務省・東京都・旧内務省・旧鉄道省が所管する分野を取材・執筆。

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